今月のエッセイ&イラスト

Vol.32「がんばれ、薫くん!」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

夫の薫くんが、こんど、NHk長崎の番組に出演する。それも、ミュージシャンとしてだ。
彼は、以前マンホールの蓋の写真を撮り集めたり、へんな看板を撮ったりと、路上観察家として、テレビに出演したことはあったのだが、ミュージシャンとしては、初めてだ。

彼の活動の場所は、一ヵ月に一回、仲間たちと開いているライブ。だから、テレビに出て歌うなんて、ちょっとかっこいいのだ。

しかし、彼の歌はへんてこである。メロディーラインもユニークだが、詩が、おかしいのである。
でも、なんともかわいらしく哀愁があって、笑えるのだ。それに彼独自の哲学がある。

だが、私は心配である。テレビは録音取りじゃないので、もし、ギターのコード進行を間違えたらどうしようとか、あがらないで、歌いきればいいなとか、やきもきする母親のような気持ちなのだ。

当の本人はいたって気楽で、私の心配など気にもならないらしいのが、すこし癪だが。

仕事をしながら、ライオンの散歩に出かけながら、彼の小さなステージが、ちょっとでも、反響を呼んだらうれしいなと、心の底からそう思い、心配をやわらかく打ち消して、私は、この頃を生きている。

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