今月のエッセイ&イラスト

Vol.31「ダンシングの夜」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

友人に誘われて、ラテンパーティーに初めて参加した。まるで倉庫みたいなプールバーを貸しきって、パーティは始まった。
コンクリートの壁に響くラテンの音楽、サルサやタンゴのリズム、ほの暗い照明を浴びて踊っているのは、圧倒的に外国人が多い。それも、情熱の国、ラテン系の人々ばかり。豊かな胸を際立たせ、スマートにセクシーにステップ刻む彼女たちの踊りの うまさに、私も友人もぼうっとみとれるだけだ。

エルサルバドルから来たという留学生に誘われて、私と友人は、おそるおそるダンスの輪の中に加わった。私たちの両手を取って、くるくるとチョウチョのようにまわしてくれる彼の身軽さに助けられながら、はじめてのダンスもなんだか楽しく思えてくる。

次第に固かった私たちの表情も笑顔に変わり、英語で話しながら、時間のたつのも忘れた。
気のいいエルサルバドルの青年は、「私のホームタウンは、長崎です」と何回もいっていた。
それだけ、この小さな港町を、彼が気に入ったということなのだろうか。

私たちはアゲインと手を振って、しばらくの休憩をとった。喉をうるおしながら見て いると、青年はすぐにまた若い女性と踊り出した。女性は、もちろんラテン系の美人。 二人のダンスは、ため息のでるほど明るくて情熱的で官能的だ。私たちは思わず拍手 をした。

その日、朝帰りをした私を、ライオンはしらっと横目でにらんだ。
「ダンスは楽しいよ、ライオン」
私はライオンの前足をとって、タララッと動かしたのだが、ライオンは眠そうに目をしばたたき、もう一度私を軽くにらんだ。

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