今月のエッセイ&イラスト

Vol.28「アフガンの赤い布を抱きしめて」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

NGOぺシャワール会の蓮岡修さんと話をする機会があった。
蓮岡さんは、アフガニスタンで、井戸掘りの責任者をしている。
あの空爆のさなかでも、井戸を掘り続けたのだ。今回の緊急帰国では、長崎までわざわざ足を伸ばしてくれた。

その蓮岡さんから、私はおみやげをもらった。アフガニスタンの女性たちが頭に被っ ている美しい布である。
白や緑、クリームやオレンジ、色とりどりの中から、彼が私にえらんでくれたのが赤 い布であった。
赤い布は、白と茶色の糸で、かれんな花の模様が刺繍されている。彼は「女性たちは、 こうやって、頭に巻くんですよ」と私にレクチャーしてくれたあと、「他にもいろい ろな使い道は、ありますけど」といった。

私はそれを軽くミニスカートの上から巻きつけたあと、横で、大きくリボンのように して結んだ。「あっ、似合いますね」と蓮岡さんが笑った。「やっぱり、赤がいちば ん、堀さんには、似合う」「ほんとに?」私もなんだかうれしくなって、笑った。

そのとき思ったのだ。堂々とゆるぎなく大勢の人々を目の前にして講演する蓮岡さん とは、別の、少年のようなやさしい目を持った蓮岡さんが、ここにいることを。

日に焼けたたくましい蓮岡さんが笑うと、あどけない子どもにかえってしまうのが、 とても不思議だ。

「こんどは、夏に帰国します」二日間の楽しい長崎での時間を過ごしたあと、蓮岡さ んは私にそういった。
また、おみやげを持ってきてくれるという。それは、ひそかに蓮岡さんが、いそがし い仕事の合間をぬって、書いているというすてきな童話。私に自作の童話をぜひ読ん でほしいという。

私は「はい」とうなずくと、「お仕事、がんばってください!」手をふった。
蓮岡さんとの再会を心待ちにしながら。あの少年のような笑顔に会える夏を。 アフガンの赤い美しい布を、胸に抱きしめて。

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