今月のエッセイ&イラスト
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Vol.27「ライオンのうれい」 |
ひとりぐらしを始めようと思ったときから、ライオンが、妙に甘えるようになった。 夫の薫くんは、さっそく自分の引っ越すマンションを見つけ、本の整理に余念がなかった。持っていく本とそうでない本と、彼は、段ボール箱につめたり、じょうずにひもでくくったりした。 なにかが、家のなかを流れていく。いままでと違った匂いと風? ライオンは、きょろきょろと目を動かし、私たちの言動をうかがい、足もとにすりよっては、ふーんと鳴いた。トイレにもお風呂にもついてきた。 薫くんが引っ越しをする日、引っ越し屋さんの騒々しい声に、ライオンはありったけの声で吠えた。 なにかが違っていく。なにかが嵐のような勢いで、流れていく? ライオンは、遠い空に向かって鳴き続けながら、最後に「じゃあね」といって出ていく薫くんを見上げた。 私は、薫くんに「気をつけてね」といいながら、ライオンに話し掛けた。 ライオンは、首をほんの少しかしげた。 |