今月のエッセイ&イラスト

Vol.26「あなたが、もし・・・」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

土曜日の午後、オーストラリアから帰ってきたばかりの友人と会った。彼女は、オーストラリア人のボーイフレンドと楽しいクリスマス休暇を過ごしてきたのだが、離れてしまって、寂しい寂しいとなんどもつぶやくのだ。
長崎とオーストラリアでは、遠距離恋愛もいいところ、お互い独身同士なのだし、ましてや、結婚を前提としているのだから、もう、いい加減いっしょに住んでしまったらどうかと、私は、彼女にいった。

彼女としては、結婚資金をためてから、結婚に踏み切りたいという願いが強いようだった。
「そんな結婚式なんかにお金かけて、どうするの?それよりもこれからの二人の生活のために、お金をためたほうが、いいんじゃない?」
私は、彼女にそう何度もすすめた。
彼女は、ふんふんとしおらしく私の意見をききながら、頷いた。

それから、しばらくして電話があった。
友人は、明るい声で受話器の向こうからいった。
「決めたわ。彼のところに行く。結婚するかしないかは、問題じゃなくて、彼といっしょに生活することに決めたの、大好きな彼と、大好きなオーストラリアで」
そのためのビザの申請で、おお忙しと、彼女はくったくなく笑った。
「きっとね、直子さん、今年は、私の新しい旅立ちになると思うわ」
「よかったね。いつか、私も、オーストラリアに行くから」
私も、つられて笑いながらそう答えた。

電話を切ったあと、私は、コーヒーを湧かし、浜崎あゆみを聞く。
「あなたがもし旅立つ その日がいつか来たら そこからふたりで始めよう」

CDののびやかな声に、私は見たこともない大陸の青い空を思い、彼女の笑顔を思った。熱いコーヒーをたっぷりと、私のカップに注ぎながら。

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