今月のエッセイ&イラスト

Vol.20「コロちゃんのこと」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

ライオンのガールフレンドのコロちゃんは、シェパードの雑種である。散歩の途中で、よく出会う。

淡い栗色の毛並みは、ふさふさとして、きりっと立った耳は、なんだかかっこいい。コロちゃんは、おとなしくりこうである。年令が16歳ときいて、私はびっくりした。
とても、そうは見えないコロちゃんのわかわかしさに、きっと、彼女は、飼い主さんに大切にかわいがられているのだろうと、私の心まで暖かくなった。

コロちゃんは、こどもの頃は、野良犬だったという。飼い主の娘さんが、拾ってきたのだという。
それが、あっというまに16年経っちゃって、と飼い主さんは、コロちゃんの頭をやさしくなでながら、いった。

ところが、最近、コロちゃんを見かけなくなった。

ある雨の日、ライオンの散歩の帰りに、スーパーの前を通りかかったら、コロちゃんの飼い主さんとばったり出会った。

「コロちゃん、元気ですか?」
と聞くと、飼い主さんは、ふっとため息をついた。
「それがね、できものが、できちゃって」
私は、なにげなくいった。
「今は、梅雨どきですから、うちのライオンにも、アトピーみたいな湿疹が、できていますよ」
飼い主さんは、首を振るようにして
「違うのよ、背中にこぶみたいのが、ぽっこりできてるの」

私は、両手いっぱいの荷物を抱えて、雨に濡れながら去っていく飼い主さんを見送りながら、ふっと重たい気持ちにおそわれた。

もしかして、背中のこぶは、腫瘍ではないか?
それが、もし、悪性だとしたら?

16歳のコロちゃん。決して若くはないコロちゃんのからだを、なにかがむしばんでいるのだろうか?
憎い悔しい背中のかたまりは、コロちゃんから、なにを奪い取ろうとするのだろうか?
あのやさしいコロちゃんから、なにを!

私は、ライオンのリードを引きながら、雨の中を足早に歩いた。
コロちゃん、いつかまた会おうねと、とつぶやきながら。 

Back Number