今月のエッセイ&イラスト

Vol.19「長崎弁のおこりかた」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

この4月から、私は子どもむけの学習雑誌に、小説を連載しているのだが、その担当の人のあまりのカンの鈍さに、私はストレスばかりがたまっている。 このままいけば、きっと私は禿げるだろう。いつか友人とけんかをして、みごとな円形脱毛症になったように。

そのことを、いきつけのワインバーで話していたら、常連客たちが、そんなときは、長崎弁で、相手に怒りをぶつっけたらいいといって、超すごい長崎発のおこりかたを私に教えてくれた。

「あーやぜらしかっ。せっからしか。なんてやこーん!わいんこと よっそわしかとに そげんこといわれとぉーなか!こんひゃーが! だごんすっぞ!!こん!!」

私はちっとも意味がわからないままに、いわれたとおりに何度も繰りかえすが、「だごんすっぞ!」というところを、「だんごにするぞ!」といってしまって、みんなが大爆笑する。

「なんてやこーん!」ということばも、私には、きつねが「コーン」と鳴いているようにしか聞こえず、関東弁のイントネションと、長崎弁のあまりの違いに僻癖する。

しかしだ、長崎に来て、9年がたとうとするのに、これほどまでに、長崎弁がしゃべれなかったとは!そして、英語よりなにより、長崎弁がこんなにむずかしかったとは!

私は、ひそかに、担当から電話がかかってくるのを待っている。担当は電話のむこうで、ぐだぐだと私の気にさわるようなことばかりいうだろう。そのときこそ、私の怒りの長崎弁が効力を発揮するのだ。
東京生まれの担当は、きっときつねにつままれたように、受話器を握ったまま、一言もいい返せないだろう。

それまで、「だごんすっぞ!こん!」と百万ぺんもいいながら。
決して、「だんご」にしてはいけないのだ。

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