今月のエッセイ&イラスト

Vol.18 「海に落ちる花火」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

友人の結婚パーティーに、私はボーイフレドと打ち合わせて、「ロミオとジュリエット」の仮装で出かけた。
花嫁、花婿を始め、その場に居合わせた人々から、くすくす笑いがもれたが、腰まで届くロングのカツラをつけ、バラの花を散らしたドレスを着て、しゃなりしゃなり歩くジュリエットの気分は、なかなかのものだった。
私たちは、パーティーのあと、港へくり出した。長崎の港には、世界から帆船が集まって、優雅な白い帆を空に広げている。
かわいらしい背の高いロシアの水兵さんが、私たちに手を振って、カメラを向けた。
私たちは、映画のように、ポーズをとり、にこやかに話した。英語とロシア語で、それでも、なんだか心が通じ合って。

夜、港に花火があがった。きらめく滝のように、流れる星のように、紫の空を、無数の火の粉が舞った。
私たちは、花嫁、花婿を囲むようにして、空を彩る花火を見ていた。夜に炸裂する光の花々は、燃え尽きる瞬間に、海に落ち、海に吸われた。夢のように、海が揺れた。

きっと、あのかわいらしい若いロシアの水兵さんたちも、この海に落ちる花火をみていただろう。
美しくライトアップされた帆船のデッキから。
こぼれるような笑顔で。

長崎の海が輝く日、私の心も満たされるのだ。
この街に生きていることへの、誇りで。

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