今月のエッセイ&イラスト

Vol.17 「 ミラクル・キャット」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

ライオンと散歩をしながら、車にはねられた黒いネコを見つけた。道路は血で真っ赤に染まり、ネコはびくとも動かない。死んだんだと思いながら、側まで近づくと、ネコはよろよろっと立ち上がり、足を引きずりながら、人家の軒下にもぐりこんだ。まだ、生きている!私は、その家の人から、段ボールの箱をもらい、ネコを入れ、獣医まで急いだ。獣医は、ノラネコだと知ると、あからさまにいやな顔をしたが、化膿止めの注射を打ってくれた。「もう、だめでしょう」といいながら。
私はネコを家につれてくると、血でよごれた段ボールを、新しいのと変え、ライオンのお古の毛布を箱の底にしいてあげた。水とササミを少しだけ置いた。ネコはいびきのようなかすれた声をもらしながら、毛布のベッドに、血だらけのからだを横たわらせ、けがした顔を伏せたまま、二晩を過ごした。
三日めの朝、もう、だめかなと思って箱をのぞいたら、ネコがじっと私の目をみつめているちょっとだけだか、目がらんと光っている。
「あれ、お前、元気になったの!」
その瞬間だった。ネコは箱の中から、びっくり箱のおもちゃのように飛び上がり、庭を走り回ると、ブロック塀をこえた。
あっけにとられる私を残して。
「こら、待て〜、おまえ、まだ、直ってないんだから!」私は、何度叫んだだろうか。だが、ネコの姿はもうどこにもなかった。

だれもいなくなった段ボールの箱を片づけながら、私は、ほんの少しのさびしさとネコの命のたくましさに、なんだか、胸がいっぱいだった。さよならもいわずに、いっちゃうなんて、かっこいいよな。
ミラクル、キャット。バイバイ、がんばれ!

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