今月のエッセイ&イラスト

Vol.16 「虹の大きさ」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

おおみそかの夜、友人と長い電話をしたあと、妙に頭が冴えて、眠れなくなり、そのまま新年を迎えた。簡単なお節とお雑煮を用意しながらも、頭の痛みはがんがんひどくなる。前から風邪っぽかった体が、よけいにだるい。
せっかくの21世紀、その第一歩だというのに、なんかついてないよな〜

正月の三日目を過ぎても、本調子ではないのだ。
おまけにしとしと雨が降っている。
重たい心を励ますようにして、犬の散歩に出た。空気は冷たい。近くの山をひとま わりする。ちょっと短いけど、帰ろうかと思い、犬のリードを引く。
すると、誰かが私を呼んでいる。
高台の家から、ときどき見かける女の人が、「ねえ ねえ、あそこ。あの空を見て」身を乗り出すようにして叫んでいる。私は一瞬わけがわからず、首をかしげたが、女の人の指さす方を見て、ああっと小さな声をあげた。
その指の向こうには、その指のずっと先の遠い空には、きれいな大きな虹がひとつ、かかっていたのだ。  

見事な色あざやかな心の虹が。私の空にかかっていたのだ。
そうか、そうだよな。あんな虹に出会えたんだもの。私の21世紀は、ついているじゃないか。 虹の空は、犬と散歩する間じゅう、私たちについてきた。そして、家の近くまできた 時に、幻のように見えなくなった。

幻じゃない私の空には、いつまでも、輝いていたけれど。

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