今月のエッセイ&イラスト

Vol.13 「不幸な男」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

毎月、一、二冊、私の家に雑誌を届けにくる宅配便会社の下請けの男の人は、犬が相当きらいらしい。
以前は、家のポストに雑誌を入れると見せかけて、私の犬ライオンを、その雑誌でいきなりぶん殴った。私は窓から見ていて、びっくりした。追いかけて男の人に抗議しようと思ったときにはもうおそく、そいつは、逃げるようにして、バイクで大通りのほうに消えたのである。

つい先日も、ライオンのけたたましい吠え声と、なにかガラスがわれるような音がきこえたので、庭に飛び出てみると、ブロック塀がこわれているではないか。と、見覚えのある青いヘルメットの男が、家の前の道を、猛スピードで走っていく 。
男は家に雑誌を届けに来て、ライオンに吠えられ、その腹いせに、ブロックを倒していったのである。

私は、もうがまんができなくなって、宅配便会社に電話した。三十分後、会社の人が、お菓子をもってあやまりにきた。
たいへん、ご迷惑をかけましたと何回も繰り返して。だけど、私の怒りはおさまらない。犬がきらいだからといって、犬を殴ったり、ブロックをけとばしたり、なんだか信じられません。犬がきらいというよりは、犬をいじめているだけではないですか?
会社の人は、そのとおりですと、ブロックを直しながら汗をふいた。
とにかく、来月からは、あの人に、宅配させないでください。もし、それがだめだったら、私が会社まで取りにいきますから。そう強くいうと、会社の人は、いえ、明日からでも、お宅にはもう、宅配させませんときっぱりいい切った。そして、きちんとした自社の人間を配達によこすと。

私はもっともっと、いっぱい言いたいことがあったけど、そのことばを信じて、会社の人と別れた。そして、ヘルメットの下のいつも灰色にくすんだあの男の目を、この世でいちばん不幸な目だと改めて思ったのだ。
犬のようなやさしい生き物に、こんりんざい愛されず、愛しもしないなんて、なんて、かわいそうな男!
ライオンといつまでも庭に立つくしながら、そう思ったのだ。

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