今月のエッセイ&イラスト

Vol.12 「ごめんね ライオン」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

夏の昼さがり、飼い犬のライオンをひっくりかえして、遊んでいた。私は、ライオンの前足や、ごろんと平べったくなったおなかをさすりながら、ライオンのピンク色の肌に点々とついている黒いモノにあぜんとなった。
ダニだったのだ!
無数のダニが ライオンの皮膚を食い尽くしている!私は、それから、延々三時間、ダニと格闘した。百匹以上ものダニが取れ、私は汗びっしょりになった。
私は、次の散歩のときから、ライオンの全身にハーブパウダーを念入りにはたき、大阪のホリステックの獣医プレマ先生から教えてもらった、副作用のない超音波のノミダニブロッカーを、ペンダントのようにしてさげ、注意に注意を重ねて出かけたのだった。こんな重装備では、ダニもよってはくるまいと、気分よく散歩から帰って、ライオンをひっくり返してみたら、なんと、ライオンの体じゅうを、うようよと楽しそうに歩いているダニたち!その数も数十匹を超える!
どんなに重装備を重ねても、散歩から帰ってくるたびに、ライオンは、ダニをまといつかせてくる。私は、仕事そっちのけで、ダニ取りに追われる。そんな日が、どれほど続いただろうか。ハーブも超音波も、このにくたらしいダニには、全然きかないのだ。
私はプレマ先生と相談した挙句、化学薬品を、近くの獣医さんから買ってきて、一か月だけ使ってみることにした。あのフロントラインというやつである。フロントラインは皮膚からは吸収されず安全だなんていうけれど、結局は、殺虫剤である。ライ オン、ごめんね。私は、解毒剤のホメオパシー(Pー25)を朝晩、服用させることで、フロントラインをつかわざるを得なくなった自分を、少しだけ納得させようとした。
もちろん、ダニは、あれ以来ライオンにつかなくなった。ノミに食われてかさかさになった皮膚にも、うっすらと毛が生え出した。
だけど、これで、よかったのかなあと、私はときどきため息をつく。
むっと熱い草いきれを吐き出す山の中へ、飛ぶように走っていくライオンを見ながら、やっぱりこれで、よかったんだよね、そう自分自身に言い聞かせながら、私は、夏が過ぎていくのをじっと待っている。

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