今月のエッセイ&イラスト

Vol.6 「こだわるということ」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

長崎においしい天ぷらの店ができたというので、友人と食べにいった。
なんでも、 こだわりのある店で、魚はすべて天然物、米も野菜も有機栽培の無農薬、油もしょう 油も、無添加でピュアなものを使うという。

しかし、店内に一歩足を踏みいれたと同時に、私はうっと顔をしかめてしまった。サラリーマンや若い女性たちの吸うたばこの煙が、充満していたのである。お店の女の子は、なんのちゅうちょもなく、どうぞと、奥の方へ案内しようとする。

私は彼女にいった。
「たばこの煙がこないところで、食事をしたいんですが…」
だが、せまい店内にしきりなどなく、カウンターの中で、こだわりの料理とやらを 作っているマスターにも、揚げたての天ぷらにも、たばこの青い煙は、へびのように のたくって届いているのだ。

しかたがないので、私たちは店を出ようとした。女の子とマスターが、けげんそう な顔をして私たちを見る。なんだかだまされたようで、気分が悪かった。あれだけ素材にこだわっているというのなら、『たばこ禁止』ぐらいのこだわりがあって当然なのにと、私は思う。
そうでなければ、ナチュラルを売り物にするな!と、帰り道、友人とおおいに怒っ たのである。 

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