今月のエッセイ&イラスト

Vol.4 「ライオン日記(2)」
文・堀 直子(児童文学作家)/写真・藤城 薫

 

私は、童話作家。おまえは、犬。
私とおまえを隔てるものといったら、いったいなんになるのだろう。
美しいつやつやのおまえの毛皮と、私の弱いぺらぺらの肌。言葉を持つ私よりも、言葉を持たないおまえの方が、いつだって、たくさんの言葉を知っている。風や、雲、虫や、草、花 や、雨や、石ころ、土の匂いさえも。なんにもよりかからないで、堂々と自分を生きている。
やさしい愛らしい瞳と、やわらかな青い木のようなまっすぐな心と。
おまえは、すべて私の持たない誇らしいものを、持っているよ。

だけど、私は、おまえになれない。たったひとつ、それだけのこと。おまえになれない私だから、おまえの持っているすべてのものにあこがれて、生きること。おまえを手本に生きること。それが、私の生きかた。ねえ、ライオン。

私たちは、なにかに追われるように、いいや、なにかを追い求めるように、引っ越 しばかりをくりかえしていた。東京から、信州、長崎へと。
ひとつのところに住みたくない、風のように漂っていたい、異邦人のように、荷物をたたみ、荷物を広げ、見知らぬ土地へと住まいを変えた。そんなわがままに、ライオンは、根気よくつきあってくれた。だから、ただひとつ、条件は、犬を飼ってもいい家、そんな家を探すこと。
足を棒のようにして。ライオンのために。ゆうれいがでそうな廃屋でもよかった。ライオンが気に入ってくれたら。それで、全部よかった。

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