1999年、5月28日。
我が家のライオンは、十年目の誕生日を迎えた。毛並みの色つ やもいいし、食欲もある。朝夕の散歩も大好きで、まだまだ青春真っ盛りという感じ 。
おめでとう、ライオン。海も風も、おまえの10才を祝福しているよ。
私は、ライオンの真っ黒い鼻さきにキスをして、だいすきなチーズを奮発してあげたのだった。
私たちが、ライオンに出会ったのは、東京から、長野県松本市に引っ越しをした夏 。
北アルプスの青い山並が、空を突き抜けるほどそそり立ち、地上には、あんずの花 のやさしい桃色が、むせるような匂いを放っていた。そんな町の小さなペットショッ
プだった。
たまたまそこに立ち寄った私たちに、店のご主人が、「この子だけ、雑種で、生ま れちゃったんですよ」と、鼻黒の赤ん坊犬を見せてくれたのだった。「だれか、もらってくれればいいんだけど」
鼻黒は、親から引き離されたばかりなのだろうか、ぶるぶると震えている。深く垂 れた耳。濡れているような茶色い瞳は、涙をいっぱいためているみたいで、せつなく
頼りない。「あのーこの子、もらっていいですか?」
私はおもわずいってしまった。
この子が、ライオン。
ライオンのように強くたくましく生きてほしいと、願いをこめて、つけた名前だ。 私たちとライオンの生活が、始まったのだった。
信州の夏から。
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